自責する親友を

ヨンハはかすかな溜息をこぼす。
「はなっから俺はあの妓【こ】のことなんて見ちゃいなかったんだ。いや、見る気すらなかった。酌をしていても、琴を弾い銅鑼灣 髮型屋ていても、舞を踊る時も。──閨に入る時さえも」
俺はいつも、あいつのことだけを見ていたんだ。
それきりヨンハは口を閉ざした。ジェシンも尋ねることを止めた。これ以上黙って聞き流してやれるほど、自分が寛容な人間ではないことを誰よりもよく知っていた。
ただ、自分の想いはただの横恋慕でしかなかったのだと思い悩み、自責する親友を、申し訳なくもいじらしく思う気持ちは確かにあった。

「ヘリョンのことは、いつでもうちに連れてこい」
ようやくかけることができた言葉だった。十年来の友情を、ここで拗らせたくはない。その思いだけは通じ合っていた。
ようやくジェシンを直視するヨンハの染髮目に、光が戻る。
「……いいのか?」
「俺もあいつも、すっかり情が移っちまったからな」

「俺に似て、玉のように可愛いからだろ?」
「馬鹿。調子に乗るな」
照れ隠しにすねを軽く蹴ってやったつもりが、思いのほか強く当たってしまったらしい。ヨンハはあやうげによろめいたあと、なんとか均衡を取り戻した。諸悪の根源であるジェシンを恨めしげに睨みつけてくる。
「どっちが馬鹿だ!」
「龍も河に溺れるのか?」
「うるさい、俺は生身の人間だぞ!」
櫂の先でしつこくつつかれて、さすがにまいったジェシンは攻撃から逃れようとひと思いに水の中に飛び込んだ。

「あっ、コロ!」
「付き合いきれない!先に帰るぞ!」
「俺が泳げないって分かっててやってるんだろっ。嫌味な奴!」
岩場に向かって泳ぎながら振り返ると、小舟の上でヨンハが悔しそうに地団駄踏んでいた。しかし舟が不安定に揺れると、恐れをなしたのか女の染髮ように悲鳴をあげている。
「本当に、馬鹿な奴だなあ」
情けない姿につい笑ってしまう。自由奔放なあの親友には日々振り回されてばかりだが、どうしても憎めないのだった。
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