沙月さんがおみえです

「土方さん、沙月さんがおみえです」



―――斎藤からそう声を掛けられたのは、午後に入ってすぐのことだった功夫之旅

突然のことに驚いた俺は思わず勢い込んで立ち上がってしまい、座っていた椅子が派手な音を立てて床に倒れた。


「どうかされましたか?」

「い、いや・・・。沙月は何の用で来たんだ?」

「いえ、伺ってはいませんが、土方さんにお会いしたいとおっしゃっています」

「そうか」



沙月は締切日には原稿を持ち込みに編集部に来るし、その他にも所用でここを訪れることだって珍しくは無い。
幸い斎藤も何も気付いている様子は無いし、ここは俺が動揺すれば返って不審に思われる。

極力淡々とした調子で「行ってくる」と斎藤に告げ、俺は沙月が待つ会議室に向かった。



昨日の今日だ。
沙月とて昨晩は突然のことに動揺していたが、一夜明けて冷静になり俺の酷い仕打ちに腹を立てて怒鳴り込んできたのかもしれない<如新 香港

それならそれだ。
例えどんなに酷く罵られようが、殴りつけられようが、あいつの気のすむようにさせてやろう・・・。


俺は会議室に続く廊下を歩く道すがら、ずっとそんなことを考え続けていた。


会議室のドアを開けると、窓際に沙月が佇んでいた。

俺が入ってきたことにも気づいていないのか、ぼんやりと窓の外の曇り空を眺めている。
PR